第0章では、なぜABAPerがBTPを学ぶのか、CAPとRAPの違い、なぜCAP Javaを選ぶのか、といった「考え方の土台」を整理してきました。
第1章からは、いよいよ実際に手を動かしていきます。まず最初のハードルとなるのが「開発環境の構築」と「一番簡単なCAPプログラム」を作成します。
本来、CAP JavaはBTP上のBusiness Application Studio(BAS)で開発するのが標準的なスタイルです。BASはブラウザから利用できる、CAP開発用にあらかじめチューニングされたクラウドIDEで、必要なツールがほぼ揃った状態で提供されるため、環境構築の手間はかなり軽減されます。
では、無料でCAP Javaを体験するにはどうすればよいかというと、大きく次の2つの方法があります。
- BTPのトライアル版を利用し、BAS上で開発する
- 自分のPC(今回はWindows)に、ローカルの開発環境を構築する
このうち①のトライアル版には、大きな注意点があります。トライアル版には利用期限があり、期限が切れたり、一定期間利用がなかったりすると、アカウントごと停止・削除されてしまう可能性があるということです。せっかく作ったプログラムが、ある日突然消えてしまう、というのは避けたいところです。
BTPのトライアル版には利用期限があり、一定期間利用がなかったりすると、アカウントごと停止・削除されてしまう可能性があります。
この記事では、CAPの開発に慣れるまで、WindowsのPC上にCAP環境を構築して、開発を行います。
そこでこのnoteでは、CAPの操作や考え方にある程度慣れるまでは、②のWindowsへのローカル環境構築でハンズオンを進めていく方針を取ります。
ローカル環境であれば、期限を気にせず、何度でも試行錯誤しながら学習できます。
なお、HANA CloudへのDB接続やBTPへの実際のデプロイを扱う回では、あらためてBTPのトライアル版を利用します。あくまで「学習の初期段階はローカルで、実践段階でBTPへ」という使い分けだと考えてください。
そのため、CAP Java開発では、Java・Maven・Node.js・CDS開発ツールなど、複数のツールを自分のPCにインストールしていく必要があります。
一つひとつは難しい作業ではありませんが、ABAPしか触ってこなかった方にとっては「そもそも何のためにこのツールを入れるのか」が分かりにくいと思います。この章では、ツールを入れる目的をABAPの世界と対応させながら、一つずつ丁寧に進めていきます。
WindowsでCAP開発を始めるために必要なもの
まず、これから何をインストールするのか、全体像を先に押さえておきます。CAP Java開発をWindows上で行うために必要なツールは、大きく次の5つです。

ABAP開発では、これらの役割はすべてEclipse(ADT)とNetWeaverサーバがまとめて担ってくれていました。CAP開発では、こうした役割を「単機能のツールを組み合わせて」実現するという発想の違いがあります。最初は「なぜこんなに色々インストールしないといけないのか」と感じるかもしれませんが、一つずつ役割を理解すれば、それほど複雑なことをしているわけではありません。
これから、上から順番にインストールしていきます。
JDK(SAPMachine)のインストール
CAP JavaはJavaで動くアプリケーションですので、まずJava本体(JDK:Java Development Kit)が必要です。
CAP JavaはJDK 17以降を前提としています(バージョンはCAPの更新に伴って変わることがあるため、実際に着手する際は公式ドキュメントの最新の推奨バージョンも確認してください)。今回はSAPが提供している SAPMachine(OpenJDKをベースにしたSAP版のJavaディストリビューション)を使う前提で進めます。SAP製品との親和性が高く、CAP開発ではよく使われています。

インストール手順
①SAPMachineの配布ページ(GitHubの SAP/SapMachine リリースページ)から、Windows用のインストーラー(.msi)をダウンロードします。バージョンはJDK 25系のLTS(長期サポート版)を選びます。

②ダウンロードした .msi を実行し、インストーラーの指示に従ってインストールします。インストール時に「Add to PATH」と「Set JAVA_HOME」を有効にするオプションにチェック(Will be installed on local hard driveを選択)を入れておいてください。

動作確認
インストールが終わったら、コマンドプロンプト(またはPowerShell)を開いて、次のコマンドを実行します。
java -version
次のようにバージョン情報が表示されれば成功です。
openjdk 25.0.4 2026-07-21 LTS
OpenJDK Runtime Environment SapMachine (build 25.0.4+7-LTS)
OpenJDK 64-Bit Server VM SapMachine (build 25.0.4+7-LTS, mixed mode, sharing)
もし 「java は、内部コマンドまたは外部コマンド、操作可能なプログラムまたはバッチ ファイルとして認識されていません。」 と表示された場合は、環境変数PATHにJavaのインストール先(binフォルダー)が追加されていません。
この対処法は、この章の最後「起動できないときに確認したいJava・Maven・Node.jsの設定」でまとめて説明します。
ABAPerの感覚で言えば、これは「NetWeaverサーバが正しく起動しているか確認する」ような作業だとイメージすると分かりやすいと思います。
Mavenのインストール
次に、Mavenをインストールします。Mavenは、Javaプロジェクトのビルド(コンパイルやパッケージング)、そして必要なライブラリ(依存関係)を自動的にダウンロード・管理してくれるツールです。
ABAPの世界では、こうした「必要なオブジェクトを集めてトランスポートする」という感覚に近いものがあります。CAP Javaのプロジェクトも、Mavenの設定ファイル(pom.xml)に「何が必要か」を書いておくと、Mavenが自動的にインターネット上のリポジトリから取得してきてくれます。
インストール手順
①Apache Mavenの公式サイトから、バイナリのzipファイル(apache-maven-x.x.x-bin.zip)をダウンロードします。
②解凍したフォルダー(apache-maven-3.9.x)を任意のフォルダー(例:C:\tools\)の下に移動します。

③環境変数を設定します。
- MAVEN_HOME:Mavenを解凍したフォルダーのパス

- PATHに %MAVEN_HOME%\bin を追加

環境変数の設定は、Windowsの「システム環境変数の編集」から行います。「詳細設定」タブ→「環境変数」ボタンで設定画面が開きます。
動作確認
コマンドプロンプトを開き直して(環境変数の変更後は必ず新しいウィンドウを開いてください)、次のコマンドを実行します。
mvn -version
次のように、Mavenのバージョンと、認識しているJavaのバージョンが表示されれば成功です。
Apache Maven 3.9.16 (2bdd9fddda4b155ebf8000e807eb73fd829a51d5)
Maven home: C:\tools\apache-maven-3.9.16
Java version: 21.0.12, vendor: SAP SE, runtime: C:\Program Files\SapMachine\JDK\21
Default locale: ja_JP, platform encoding: UTF-8
OS name: "windows 11", version: "10.0", arch: "amd64", family: "windows"
ここで表示されるJavaのバージョンが、先ほどインストールしたSAPMachineのバージョンと一致していることを確認してください。もし別のJavaのバージョンが表示される場合、PC内に複数のJavaがインストールされていて、環境変数「JAVA_HOME」が意図しないものを指している可能性があります。
Node.jsのインストール
ここで少し「なぜCAP JavaなのにNode.jsが必要なのか」という疑問が湧くと思います。私自身、最初にこの疑問にぶつかりました。
理由はシンプルで、CDS(Core Data Services)を扱うためのコマンドラインツール「cds-dk」が、Node.js製のツールとして提供されているからです。CAPというフレームワーク自体は、CDSコンパイラなどのコア機能がNode.jsのエコシステム(npmパッケージ)で開発・配布されています。CAP JavaプロジェクトであってもCDSファイルの解析やコンパイルにはこの仕組みを利用するため、実行アプリケーションはJavaであっても、開発時のツール群を動かすためにNode.jsが必要になります。
つまり、次のような役割分担になっています。
- Node.js/npm:CDSファイルを解析・コンパイルする「開発時ツール」を動かすための土台
- Java/Maven:実際にアプリケーションとして動く「実行時のプログラム」を作る基盤
ABAPの世界に慣れていると、「実行環境と開発ツールの基盤が別言語」というのは奇妙に感じるかもしれません。ですが、これはCAPというフレームワークが、もともと複数言語(Java版・Node.js版)に対応する形で設計されていることに起因しています。
インストール手順
①Node.jsの公式サイトから、LTS(長期サポート)版のWindows用インストーラーをダウンロードします。

②インストーラーを実行し、デフォルト設定のままインストールを進めます(npmも同時にインストールされます)。
動作確認
node -v
npm -v
それぞれバージョン番号が表示されれば成功です。
v2x.x.x
1x.x.x
CDS Development Kitのインストール
Node.jsとnpmの準備ができたら、いよいよCAP開発の中核となるコマンドラインツール、CDS Development Kit(略称:cds-dk)をインストールします。
cds-dkは、次のようなことができるコマンドラインツールです。
- CAPプロジェクトの雛形を作成する(cds init)
- CDSファイルを構文チェック・コンパイルする
- ローカルでアプリケーションを起動する(cds watch)
ABAPerの感覚で言うと、「新規プログラムを作成する」「構文チェックを行う」「テスト実行する」といった、Eclipse(ADT)上のメニュー操作に相当する機能が、コマンドとして提供されているイメージです。
インストール手順
npmを使って、グローバル(PC全体)にインストールします。コマンドプロンプトで次のコマンドを実行してください。
npm install -g @sap/cds-dk
インストールには数分かかることがあります。完了したら、動作確認を行います。
cds --version
次のように、cds-dkとCDSコンパイラのバージョンが表示されれば成功です。
@sap/cds: 8.x.x
@sap/cds-compiler: 5.x.x
@sap/cds-dk: 8.x.x
もし社内プロキシ環境でnpmのインストールに失敗する場合は、npmのプロキシ設定(npm config set proxy / npm config set https-proxy)が必要になることがあります。この点は社内のネットワーク管理者に確認してみてください。
Visual Studio Codeのインストール
続いて、開発に使うエディタを準備します。ABAP開発ではEclipse(ADT)が定番でしたが、CAP開発では Visual Studio Code(VS Code) を使うのが一般的です。
インストール手順
Visual Studio Codeの公式サイトから、Windows用インストーラーをダウンロードしてインストールします。デフォルト設定のままで問題ありません。

CAP開発用の拡張機能を追加する
VS Codeをインストールしただけでは、CDSファイルのシンタックスハイライトや補完機能は使えません。左側の拡張機能アイコン(四角が4つ並んだアイコン)から、次の拡張機能を検索してインストールしておきましょう。


これらを入れることで、ABAPでいうところの「ADTのコード補完・構文チェック機能」に近い開発体験がVS Code上で得られるようになります。
拡張機能をインストールしたら、一度VS Codeを再起動しておくと安全です。
CAP Javaプロジェクトを新規作成する
ここまでで、必要なツールが一通り揃いました。いよいよ最初のCAP Javaプロジェクトを作成します。
プロジェクト用フォルダーの作成
まず、プロジェクトを置くフォルダーを作成し、そこに移動します。
mkdir C:\projects\cap
cd C:\projects\cap
cds initでJavaプロジェクトを作成する
cds-dkの cds initコマンドで、CAPプロジェクトの雛形を作成します。
cds init bookshop --add java
cd bookshop
これで、bookshop という名前のフォルダーに、CAPのJavaプロジェクトの基本構成が作成されます。
【注意】
「cds init」のオプション(–add java)を付けずにプロジェクトを作成した場合は、Node.js向けのプロジェクトが作成されます。
Node.js向けのプロジェクトにJava機能を追加するためには、下記の追加のコマンドを実行してください。
cds add java
CAP Javaのフォルダー構成をABAPer向けに解説
作成された bookshop フォルダーの中身を見てみましょう。VS Codeで bookshopフォルダーを開くと(メニューの「ファイル」→「フォルダーを開く」)、次のような構成になっているはずです。
若しくは、bookshopフォルダーから「code .」を実行することで、対象のフォルダーを開くことができます。
cd
C:\projects\cap
code .
bookshop/
├── db/ … データモデル(CDS)を置く場所
├── srv/ … サービス定義・ビジネスロジックを置く場所
├── package.json … Node.js/CDSツール向けの設定ファイル
└── pom.xml … Mavenのビルド設定ファイル(Java機能を追加すると生成される)
CAPアプリをWindowsで起動してみよう
環境とプロジェクトの準備ができたので、実際にアプリケーションを起動してみましょう。
Mavenで直接起動する
VSCode の画面から、「Ctrl + Shift + @」を押下するとターミナルを開くことができます。
Spring BootアプリケーションとしてMavenするので、下記のコマンドを実行してください
mvn spring-boot:run
【注意】
cds watchでも実行できるようですが、Java版のCAPの場合は「mvn spring-boot:run」で実行する方が、本番に近い形で起動を確認できます。
下記のようなログが表示され、プロンプトが止まったら、ブラウザのURLに「localhost:8080」を打ち込んでください。


[注意]
スペックの低いパソコンの場合、1~3分近く掛かるかもしれません。
アプリケーションを停止するときは、コマンドプロンプト上で Ctrl + C を押します。
起動できないときに確認したいJava・Maven・Node.jsの設定
環境構築でつまずくポイントの多くは、「PATHが通っていない」「バージョンが合っていない」「複数バージョンが混在している」といった環境変数まわりの問題です。ここでは、よくあるトラブルとその確認方法をまとめておきます。
① コマンドが「認識されていません」と表示される
java、mvn、node、cds のいずれかを実行して「内部コマンドまたは外部コマンドとして認識されていません」と表示される場合、環境変数PATHにそのツールのbinフォルダーが追加されていません。
確認方法:
echo %PATH%
このコマンドで表示される内容の中に、各ツールのbinフォルダー(例:C:\Program Files\sapmachine-17\bin)が含まれているかを確認してください。含まれていない場合は、システム環境変数の「Path」に手動で追加します。環境変数を変更した後は、必ずコマンドプロンプトを開き直してください(開いたままのウィンドウには反映されません)。
② mvn -versionで表示されるJavaのバージョンがおかしい
PC内に複数のJavaがインストールされている場合(過去にOracle JDKなどを入れたことがある場合など)、Mavenが意図しないJavaを参照してしまうことがあります。
確認方法:
echo %JAVA_HOME%
この結果が、SAPMachineをインストールしたフォルダーを指しているかを確認してください。異なる場合は、環境変数「JAVA_HOME」を正しいパスに設定し直します。
③ npmのインストールがタイムアウトする、失敗する
社内ネットワークでプロキシを経由している環境では、npmが外部のレジストリ(npmjs.com)に接続できずタイムアウトすることがあります。
確認方法:
npm config get proxy
npm config get https-proxy
必要に応じて、社内のプロキシ情報を設定します。
npm config set proxy http://proxyserver:port
npm config set https-proxy http://proxyserver:port
④ cds watchでMavenのビルドエラーが出る
cds add javaの後に初めて cds watch を実行すると、Mavenが必要なライブラリをインターネットからダウンロードします。この際、社内プロキシの影響でMaven側のダウンロードが失敗することがあります。Mavenのプロキシ設定は、Mavenのインストールフォルダー内の conf/settings.xml、またはユーザーフォルダーの .m2/settings.xml で行います。
⑤ ポート8080がすでに使われている
他のアプリケーション(Tomcatや別のCAPプロジェクトなど)がポート8080を使用していると、起動に失敗することがあります。この場合は、いったんそのアプリケーションを停止するか、cds watch –port 8081 のようにポート番号を変更して起動します。
第1章のおわりに
ここまでで、Windows上にCAP Java開発に必要な一通りの環境が整い、一番簡単なCAPアプリケーションを作成して、実際に起動することまで確認できました。
ABAPの世界では意識することのなかった「環境構築」というプロセスに、最初は戸惑う部分も多かったのではないかと思います。私自身も、最初にこの環境構築でつまずき、半日近く格闘した経験があります。ですが、一度型ができてしまえば、次のプロジェクトを立ち上げるときはずっとスムーズに進められるようになります。
次章(第2章)では、今回サンプルとして生成された schema.cdsを題材に、CDSでのデータモデル設計について、ABAP CDSとの違いを意識しながら詳しく見ていきます。
引き続き、頑張っていきましょう。頑張れABAPer。

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